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死刑制度を考える
「死刑」という言葉を、ドラマやニュースで耳にしたことはあるだろう。でも、それが日本で実際にどう執行され、世界ではどう扱われているのかを知っている人は、意外と少ない。
「死刑」という言葉を、ドラマやニュースで耳にしたことはあるだろう。でも、それが日本で実際にどう執行され、世界ではどう扱われているのかを知っている人は、意外と少ない。
日本では、いまも年に0〜数人ほどが密かに死刑を執行されている。執行のことは、当日の朝まで本人にも家族にも知らされない。一方、世界に目を向けると、すでに半数以上の国がこの刑罰をやめてしまった。日本は、先進国のなかでほとんど唯一、死刑を続けている国である。
なぜ日本は続けているのか。なぜ多くの国はやめたのか。答えはひとつではない。賛否それぞれの言い分を、できるだけ平等にならべてみる。
死刑とは何か?
死刑とは、罪を犯した人の命を、国家が法律にもとづいて奪う刑罰である。刑のなかでもっとも重く、適用される罪はどの国でも限られている。
日本では、刑法第11条で「死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する」と定められている。絞首とは、首にロープをかけてつるす方法のことだ。対象になる罪は18種類――殺人罪、強盗殺人罪、現住建造物等放火罪、内乱罪、外患誘致罪などである。
死刑がほかの刑罰と決定的に違う点は、「やり直しがきかない」ということだ。冤罪(=えんざい、無実の罪)が後から判明しても、命は戻ってこない。これは、死刑を考えるときに避けられない大前提である。
世界ではどう執行されているか
死刑を残している国でも、執行の方法は国ごとにかなり違う。代表的な5つの方法を見てみよう。
絞首刑(こうしゅけい)
首にロープをかけてつるす方法。日本、シンガポール、マレーシア、イラン、エジプトなどで採用されている。日本ではこれだけが認められている。
薬物注射(lethal injection)
麻酔薬、筋弛緩剤、心停止剤の3種類を順番に注射する方法。アメリカの多くの州、中国、ベトナム、タイで使われている。「もっとも苦痛が少ない方法」と説明されることが多いが、薬剤調達の困難から廃止に向かう州もある。
銃殺(じゅうさつ)
複数の射手が同時に銃を撃つ方法。中国、北朝鮮、サウジアラビアなどで採用されている。
斬首(ざんしゅ)
剣で首を切断する方法。現在も実施しているのはサウジアラビアくらいとされる。
電気椅子・ガス室
かつてアメリカ各地で使われていたが、いまはほぼ薬物注射に置き換わっている。
なぜ続けるべきだといわれるのか(賛成派の声)
死刑を続けるべきだという立場は、おおまかにこういう論理に立つ。
1. 「命を奪った人には、命で償ってもらうべきだ」
罪と罰のつり合い(=応報)を重んじる立場である。何人もの命を奪った犯人に、生きて時間を過ごす権利は与えられない、という直感的な感覚である。被害者遺族が「せめて命で償ってほしい」と訴える事件報道に、多くの人が共感する。
2. 「死刑があるから、犯罪が抑えられている」
重い刑があれば、犯罪を思いとどまる人が出るだろう、という考え方である(=一般予防)。ただし、これが本当かどうかは後述するように、研究では結論が出ていない。
3. 「絶対に再犯はできなくなる」
死刑が執行されれば、その人がふたたび罪を犯すことは物理的に不可能になる。終身刑では万一の脱獄や、出所後の犯行の可能性が残るが、死刑にはそれがない。
4. 「日本人の8割以上が死刑を支持している」
内閣府の世論調査では、長年にわたり「死刑は必要だ」と答える国民が8割前後を占めている。民主主義国家のルールに従えば、これだけ多くの人が支持する制度を簡単に廃止すべきではない、との主張である。
なぜやめるべきだといわれるのか(反対派の声)
一方、死刑をやめるべきだという立場には、こんな主張がある。
1. 「冤罪のとき、取り返しがつかない」
戦後の日本でも、死刑判決を受けたあと、再審で無罪となった人が何人もいる(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件、そして2024年に再審無罪となった袴田巖さん――いずれも数十年も自由を奪われた)。もし死刑が執行されてしまっていたら、誰がその人を生き返らせることができるだろうか。
2. 「死刑があれば犯罪が減る、とは限らない」
アメリカで行われた研究では、死刑廃止州と存置州の殺人発生率に明確な差はないとされる。「重い罰があれば犯罪が減る」というのは直感的にはわかりやすいが、データはそれを裏付けない、というのが反対派の主張である。
3. 「国家が人の命を奪うべきではない」
個人の生命を国家が奪うこと自体が、近代国家の理念に反する、という考え方である。EU諸国は、死刑廃止を加盟条件にしている。世界人権宣言や自由権規約も、死刑廃止の方向を支持している。
4. 「日本は世界の少数派になりつつある」
先進国のなかで、いまも死刑を執行しているのは日本、アメリカの一部州、シンガポールくらいに限られる。日本だけが特別な立場にあることへの違和感は、年々増しているとされる。
5. 「執行する刑務官の心の傷」
あまり報じられないが、死刑のボタンを押す刑務官たちの精神的負担は重い。退職後にPTSDを発症する例もあると報じられた。「刑罰は加害者に向けられたものなのに、執行する側もまた深く傷つく」という現実がある。
日本の現状
日本では現在も死刑が維持されている。法律と運用は次のようになっている。
- 刑法第11条:絞首刑によって執行
- 刑事訴訟法第475条以下:法務大臣の命令で執行(命令から5日以内)
- 対象罪名:殺人罪、強盗殺人罪、現住建造物等放火罪、内乱罪、外患誘致罪 等18種類
実際の執行件数は、年に0〜3人ほどで推移している(2018年はオウム真理教関連で計13名が執行され、例外的な年だった)。死刑が確定して執行を待つ「死刑確定者」は、2025年時点でおよそ100名前後とされる。執行は本人にも家族にも、当日の朝まで知らされないのが原則である。
日本の近年の動向
近年、死刑をめぐる議論は新しい段階に入っている。
- 2024年:袴田巖さん(死刑判決確定から58年、再審請求を続けてきた87歳)が、再審で無罪に。検察は控訴を断念し、無罪が確定した。「冤罪のとき死刑では取り返しがつかない」という反対派の主張を、強烈に裏付ける出来事だった。
- 2024年:京都アニメーション放火殺人事件でA.S被告に死刑判決(京都地裁)。36人の命が奪われ、被告は心神耗弱を主張したが、退けられた。「永山基準」(死刑選択の最高裁基準)が現代でも機能する事例として注目された。
- 2022年:日本弁護士連合会が、死刑廃止を含む刑罰制度の抜本改革を求める宣言を採択。
- 2025年6月:拘禁刑制度の施行(懲役と禁錮の統合)。次の改革テーマとして、終身刑の創設や死刑制度のあり方が議論されている。
世論調査では死刑支持が多数派という結果が続いているが、若年層では「どちらとも言えない」「廃止すべき」と答える割合が、徐々に増えているとされる。
海外での採用動向
アムネスティ・インターナショナルの集計では、2024年時点で世界196か国の状況はおよそ次のようになっているという(数値は概算)。
- 完全に廃止した国:約112か国
- 通常犯罪については廃止(戦時等のみ可能):約9か国
- 事実上の廃止(10年以上執行なし):約23か国
- 実際に執行している国:約52か国(中国、イラン、サウジアラビア、北朝鮮、アメリカ一部州、日本など)
「廃止国+事実上の廃止国」を合わせると約144か国――世界の3分の2以上である。世界の主流は明らかに廃止に傾いている。一方で、執行件数のほとんどは中国・イラン・サウジアラビア・北朝鮮など、限られた国に集中する。
歴史をたどってみる
死刑は人類の歴史と共にあった刑罰である。少しさかのぼってみよう。
古代:報復としての死刑
紀元前18世紀のハンムラビ法典には「目には目を、歯には歯を」と書かれていた。古代ギリシャ・ローマでも、死刑は当たり前の刑罰だった。罪に対して命で応える――それは長らく「自然なこと」とされてきた。
中世:残虐な処刑方法の時代
中世ヨーロッパでは、絞首・火刑・車輪刑・四つ裂きなど、残酷な処刑が行われた。魔女狩りでは多くの女性が火刑になった。一方、日本でも平安時代の後期から鎌倉時代の前まで、約340年にわたって死刑が事実上「停止」していた時期があったとされる(「穢れ」を嫌う宗教観の影響だという説がある)。武家政権の時代になると、磔(はりつけ)、火炙りなどの処刑が復活した。
近代:廃止論の登場
1764年、イタリアの法学者ベッカリーアが『犯罪と刑罰』という本を出した。そのなかで、死刑は無益で残酷であると批判した。これが、近代以降の死刑廃止論の原点とされる。19世紀以降、北欧諸国を皮切りに、死刑をやめる国が少しずつ現れた。
戦後・現代:廃止の世界的潮流
第二次世界大戦後、ナチス・ドイツの戦争犯罪人への死刑執行を経て、各国で死刑制度が見直された。1948年の世界人権宣言、1966年の国際人権規約を経て、1989年には「死刑廃止条約」(自由権規約第二選択議定書)が国連で採択された。1990年代以降、欧州を中心に廃止が加速し、2000年代には廃止国が存置国を上回るようになった。
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