事件概要

2019年8月10日、茨城県の常磐自動車道で、M.F被告(当時43歳)が運転する車が、別の乗用車に対し約12キロにわたって執拗な進路妨害を繰り返した。最終的に走行車線で被害車両を強制停止させたうえ、運転席に近づき被害者男性の顔面を複数回殴打。被害者男性は鼻の骨を折るなどの傷害を負った。

事件は被害車両のドライブレコーダーに克明に記録されており、その映像が報道されたことで全国的に大きな衝撃を広げた。事件直後、助手席に同乗していた女性(『ガラケー女』と呼ばれた)の顔写真が、無関係の女性の写真とともにSNSで誤って拡散される騒動も発生。誤情報を流された別の女性は名誉毀損として加害者らを訴える事態にまで発展した。

2019年8月18日、M.F被告と同乗女性が大阪市内で逮捕された。

判決

・判決日:2020年12月15日

・裁判所:横浜地方裁判所(後に東京地裁立川支部に移送)

・判決:懲役2年6か月(実刑)

・求刑:懲役3年

・罪名:強要罪、暴行罪、車両等強取罪等

判決理由では、執拗な進路妨害と、走行中の高速道路上で被害車両を停止させた危険性、停止後の暴行の悪質さが厳しく指摘された。被告は事件当時、別件事件でも執行猶予中だったとされ、それも実刑判決の理由となった。

被害者の声

被害者は40代の男性会社員。鼻の骨を折るなど顔面に傷害を負った。事件後、被害者は『あの恐怖は一生忘れない』と話していると報じられた。SNSで顔写真を誤拡散された別の女性も、社会的被害を受けた。

量刑の相場

強要罪(刑法第223条)の法定刑は『3年以下の懲役』、暴行罪(刑法第208条)は『2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留または科料』、傷害罪(刑法第204条)は『15年以下の懲役、または50万円以下の罰金』である。

あおり運転に伴う暴行・強要事件では、本件以降、執行猶予なしの実刑判決が出る傾向が強まったとされる。被害者の負傷程度、執拗性、社会的影響、前科の有無などが量刑判断の要素となる。

同種事件の判決

2017年の東名あおり運転事件(I.K被告)では、危険運転致死傷罪で懲役18年(2022年差戻し審・横浜地裁)。

諸外国の事例

・アメリカ:road rage(あおり運転)は多くの州で重大暴行罪・殺人罪として処罰。死亡結果がある場合、二級殺人で15年から終身刑

・イギリス:危険運転致死罪は2022年法改正で最高刑が終身刑に引き上げ。

・ドイツ:刑法第315c条『危険な道路交通介入罪』は加重事由ありで5年以下の自由刑。

・フランス:強要罪、傷害罪に加え、自動車運転に伴う加重規定。

(引用元:各国法務省ウェブサイト、Sentencing Council UK等を参照)

併科措置に関する論点

あおり運転事件では、運転免許の取消・長期再取得制限、妨害運転罪(2020年新設)の活用、ドライブレコーダー普及、車両ナンバー認識技術の活用などが議論される。

参考リンク

・NHK NEWS WEB『常磐道あおり運転事件 M被告に懲役2年6月実刑』(2020年12月15日)

・朝日新聞デジタル『常磐道あおり運転、被告に懲役2年6カ月実刑』(2020年12月)

・毎日新聞 常磐道あおり運転事件 一連の報道(2019〜2020年)

・テレビ朝日 常磐道あおり運転事件 関連報道

法改正動向

本件と東名事件を契機に、2020年6月、道路交通法改正により『妨害運転罪』(あおり運転罪)が新設された。違反者には最大5年の懲役または100万円以下の罰金、免許取消(欠格期間最大3年)。