事件概要
2016年5月21日、東京都小金井市のライブハウス付近で、元アイドルでシンガーソングライターのT.M被害者(当時20歳)が、ライブ前にファンを装って待ち伏せした男に、刃物で首や胸など20数か所を刺された。被害者は一時心肺停止状態となり、長期間にわたる集中治療を経て一命を取り留めたが、深刻な後遺症を負った。
逮捕されたI.T被告(当時27歳)は、被害者にツイッター(現X)などで一方的にメッセージを送り続け、被害者から拒絶されたことを逆恨みしていた。被告は、警察への相談歴のあるストーカー的行動を続けながらも、事前にストーカー規制法に基づく警告等が出されなかったことが、後に大きな問題となった。
事件はストーカー規制法の不備を露呈し、SNS・ネット上のつきまといを規制対象に含める法改正(2017年)のきっかけとなった。
判決
- 判決日:2017年3月15日
- 裁判所:東京地方裁判所立川支部
- 裁判長:近藤宏子
- 判決:懲役14年6月(求刑:懲役17年)
- 罪名:殺人未遂罪、銃刀法違反等
判決理由では、「被害者が落ち度なく襲われ、生命に関わる重傷を負った」「被告の犯行は計画的・執拗で、強い殺意がうかがえる」と認定された。
検察側の主張
「被告は事前に凶器を準備し、被害者の住所等を調べ上げ、計画的に襲撃した。被害者は一命を取り留めたものの、重大な後遺症を負っており、犯行の悪質性は極めて高い」と主張。懲役17年を求めた。
弁護側の主張
「被告は精神的に不安定な状態にあり、被害者への一方的な思いが歪んでいった。完全責任能力の有無について慎重な判断を求める」と主張したとされる。
被害者の声
被害者のM.T被害者は、20歳という若さで命を狙われ、長期間の入院・リハビリを余儀なくされた。視覚障害などの後遺症が残ったとされ、本件はストーカー被害の深刻さを社会に強く訴える事件となった。 被害者本人および家族は、ストーカー規制法の改正に向けた働きかけにも積極的に取り組んだ。
量刑の相場
殺人未遂罪(刑法第203条)の法定刑は、殺人罪に準じ「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」(ただし未遂減軽あり)。
量刑判断の要素は、(1)殺意の強さ、(2)犯行の計画性、(3)凶器の種類、(4)被害者の負傷程度・後遺症、(5)被告の前科、(6)反省の程度など。
ストーカー型殺人未遂事件では、被害者の重傷・後遺症の重大性、犯行の計画性などから、懲役10年〜20年規模の判決が言い渡される傾向にある。
同種事件の判決
2018年、北海道での元交際相手刺殺事件で殺人罪により懲役16年の判決。 ストーカー殺人事件としては、1999年桶川ストーカー殺人事件(被告に懲役18年)、2011年長崎ストーカー殺人事件など、警察対応の遅れが問題となった事案が複数存在する。
諸外国の事例
- アメリカ:ストーカー罪は連邦法・州法で処罰、最大禁錮5年(基本)、被害者死傷を伴えば殺人罪・傷害罪と併合で重罰化。
- イギリス:Protection from Harassment Act 1997、最高刑6か月→2012年改正で5年に引き上げ。
- ドイツ:刑法第238条「ストーキング罪」最高3年の自由刑、悪質事案で5年以下。
- 韓国:ストーキング処罰法(2021年制定)、最高刑5年の懲役。
各国とも、SNS時代に対応したストーカー法制の見直しが進んでいる。
併科措置に関する論点
ストーカー型犯罪では、(1)ストーカー規制法に基づく警告・禁止命令の早期発令、(2)警察と司法・福祉の連携、(3)加害者更生プログラムの義務化、(4)被害者保護のための住所秘匿・GPS監視、(5)SNS事業者との連携によるアカウント停止などが論点となる。
参考リンク
- NHK NEWS WEB「M.T被害者刺傷事件 被告に懲役14年6月判決」(2017年3月15日)
- 朝日新聞デジタル 該当事件判決報道
- 毎日新聞 M.T被害者事件 公判詳報
- 読売新聞 ストーカー規制法改正関連報道
- M.T被害者著「Stalking 私が怖くなくなった日」(参考書籍)
法改正動向
本件をきっかけに、2017年1月、改正ストーカー規制法が成立(2017年6月施行)。従来の電話・メール等のつきまといに加え、SNS等でのメッセージ送付も規制対象に追加された。また、警告手続きの簡素化、禁止命令の即時化など、被害者保護を強化する内容となった。被害者側からの働きかけが法改正に直接結びついた、被害者運動の象徴的事案となっている。
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